独眼流正宗

独眼レフを操る 下手っぴ写真愛好家の場末の毒舌ブログです。「頭の中に漠然とある感覚や印象を、気分や感情に左右される事なく、言葉や文字に置き換える時に、それらは初めて明確な意思や思考になる。」そのための自己反芻のようなモノでもあるので、興味のない方はスルーして下さい。

「モロッコ、彼女たちの朝」

どうしても観たくて「モロッコ、彼女たちの朝」を小規模劇場で鑑賞してきました。

ウェブでたまたま画像を見つけて、その画面の綺麗から興味を持ったためです。

 

映画『モロッコ、彼女たちの朝』公式サイト

 

婚前交渉が不貞とされ、未婚の母やその子供があからさまに差別されるモロッコ。そのモロッコ初の長編映画がこの「モロッコ、彼女たちの朝」です。

 

この映画を通じて、我々が知らなかったモロッコ社会が抱える問題…女性の権利や地位が社会的に全く守られていない旧態依然とした価値観が重んじられているモロッコの現実が浮き彫りになりました。

 

ストーリーは妊娠して男に逃げられ、ホームレスとなって街を彷徨う臨月の女性と、夫に先立たれ細々とパン屋を営みなが独りで娘を育てるシングルマザーの心の交流と葛藤…ネタバレになりますが、結論は観ている人それぞれで考えるように唐突に終わります。

 

建前、見栄、意地…そして何よりも重要な世間体。苦悩するモロッコの女性のそれぞれの価値観に、屈託のない娘の視点が加わる事で作品に深みが加わります。

建前や世間体を気にしない子供の視点は、実は私達傍観者の視点でもあるのです。

 

 

f:id:muramasachang:20210827093322j:imagelongride公式HPより

映像的には、一貫して柔らかい光が画面を潤す、綺麗な絵作りの映画です。

パンフォーカスくっきりはっきりのハリウッド映画とは違い、画面全体にフォーカスが来ている瞬間は極少。その浅い被写界深度で、常に背景ボケをしているこの映画の世界観はフェルメールの絵画が動いてるかのような美しさでした。

 

最初は、ひとつの画面に収まっていても一人にしかピントが合っていません。ピントをもう一人にパンすると元々ピントがきていた人物がボケる。屈託のない娘とは、それぞれ同じピントに収まるのに、大人同士だと別々。

f:id:muramasachang:20210827094754j:imagelongride公式HPより

それが彼女達の距離感でした。しかし紆余曲折の末、打ち解けてくるに従って同じ画面の同じ被写界深度に、徐々に収まってくる二人。映像としての心理描写の見事さに感服しました。

f:id:muramasachang:20210827094558j:imagelongride公式HPより

 

とても重い内容の社会派映画です。しかし台詞回しとは違う、俳優さん(子役も見事の一言です)の表情と空気感の演技の見事さと、美しい絵作りで、重苦しいだけの映画ではありません。

目をを瞑って見ないようにしている、それぞれが抱える問題に、互いが鋭く指摘し合うような関係になり、笑顔も増え、観ている我々も救われます。

 

 

筆者が最も感心したのは、モロッコ政府がこの映画に出資している事です。

世界配給になり、自国の人権問題が浮き彫りになりかねない映画です。旧態依然な価値観の国では政府から圧力こそあれ、バックアップがあるとは思ってもみませんでした。

政府が現状を良しとしていなくて、自国民や海外に対して問いかけをしているのだと思います。

井の中の蛙で、国民の価値感に男尊女卑が根強く残るだけで、モロッコという国の政治は我が日本より遥かに成熟しているように感じました。

いや、日本があまりにお粗末なだけなのかもしれませんね。

人権だの、人道だの、平等だの、民主だの、耳障りの良い言葉ばかり並べるだけで、実際は富める者を肥えさせる政治しかない日本。

井の中の蛙は実は、わたし達の方なのではないか?そんな事も同時に考えさせられた映画でした。

 

 

お薦めです!